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Everything's Gone Green

感想などです

滝山団地に行ってきた

 先週末の3月11日、東久留米のあたりにある巨大団地、滝山団地に行ってきた。なんでかというと、聖地巡礼である。

 

滝山コミューン一九七四 (講談社文庫)

滝山コミューン一九七四 (講談社文庫)

 

 

しばらく前に読んだ『滝山コミューン1974』という本がめちゃくちゃ強烈だったので、これは是非とも現場を見にいかねば!と思い、マイメンのブンちゃん(https://twitter.com/state_steven?lang=ja)といっしょに見に行ってきたのであります。

 

 『滝山コミューン1974』は1970年代にこの滝山団地に住み、団地に隣接した東久留米市立第七小学校に通っていた筆者が負ったトラウマと、それがいかにして生じたのかを綴った本だ。1970年代当時、民主的で集団行動に対して自覚的かつ自主的に取り組む子供を生み出すにはどうすればよいか、という命題に向かって教師と親が善意から愚直に学校のシステムに介入し、その結果著者やその他の子供達がどういう目にあったかが詳細に描かれている。その内容をここで一言で言い表すのは至難の業である。できれば本を買って読んでみてほしい。

 

 花小金井駅で降りて西武バスに揺られること20分あまり。滝山団地の入口で降りる。ブラブラ歩いていくと、そのうちに団地が見えてくる。

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 話に聞いてはいたが、滝山団地の威容は本当に凄まじい。歩いても歩いても同じ形の建物がずーーーっと続いて建っており、しかも周囲の住宅街とは隔絶した立地になっているので、団地の中にいる限り団地の建物以外がほとんど視界に入ってこない。いけどもいけども団地。遠近感が狂いそうになる。

 

 事前にブンちゃんと軽く話していたのが「団地の中に商店街のようなものがあるらしいので、せっかくだからそこで昼飯を食おう」という算段だった。しかしあまりにも団地ばかりでどこにそんな商店街があるのかわからない。ウロウロしているだけの我々を不審に思ったのか、自転車をひいたお婆さんが「どこのお宅を探してるの?」と話かけてきた。「昼飯を食おうと団地の商店街を探していまして……」と答える我々。

 

 「それならこっちだよ!」と道を教えてくれるお婆さん。どうやら歩いていく方向が同じようなので、三人でダラダラと歩いていく。道すがら聞けばお婆さんは40年前、団地ができた当初から住んでいるという。滝山団地は分譲と賃貸で区画が分かれており、全部の世帯数は4000あまり。お婆さんは今でも団地の自治会に属しており、その自治会は自由参加ながらいまだに1600世帯程度が参加しているという。4000! 途方も無い。

 

 お婆さんは一見すると70歳そこそこに見えたが、よくよく聞くとすでに80歳をまわっているという。それでも自転車をひいて自分で買い物に出向くのだから大したものだ。曰く、団地の自治会でも高齢化対策的な部署の設立を強く訴えかけ、自治会の選挙の上でその部署のトップに選ばれたのだと胸を張る。その話を聞いて内心おれは非常に興奮していた。なんせ『滝山コミューン1974』の非常に重要な要素として小学生の子供達が選挙によって相互に争い、生徒会の主要ポストをどのクラスが占めるかで追い詰められていく描写があったからだ。選挙! 高齢者だろうが小学生だろうが、滝山団地では全てに選挙が適用されるのである! 正直1970年代からの風習(?)がここまで色濃く残っているとは思わなかった。

 

 お婆さんに団地内の商店街付近で昼食をとれる場所がないか聞いてみると、「ドンキホーテ」という喫茶店がよいと教えてくれた。何十年も前だがその店にフォークソングのバンドを呼び、団地住人のレクリエーションを企画したことがあったのだという。フォーク! 住人のレクリエーション! そんなことをやっていたのか滝山団地。お婆さんの話を聞くと住人の相互理解と意識の統一を狙ったもののようだったが、近所の喫茶店に行くたびにそんなものに巻き込まれていてはたまらんなあ、としみじみ思った。「昔は住人で連れ立ってお茶を飲みに行くことも多かったからこのあたりには喫茶店も多かったけど、今ではドンキホーテだけになってしまった」というようなことをお婆さんは言っていた。そのレクリエーションに協力してくれたのが「二本松はじめ」という人で、当時は市の職員か何かだったが、今ではシンガーソングライター的な感じで全国を飛び回り平和のために頑張っているのだ、とお婆さんは熱っぽく語った。

 

 他は団地付近の公民館のような施設の中に喫茶店があるのだという。が、その店の話をする時にお婆さんのテンションが一段下がった。曰く、その店には行政的な雇用対策の一環として障害者が雇われており、その障害者が皿の置き方は荒いわ、客にお尻を向けてぼーっと立っているわで、非常に感じが悪いのだという。「こんなことを言うのはよくないけど」と前置きしつつ、お婆さんはその障害者の従業員に対する不満を我々2人に言い続けた。

 

 ここでおれはなんだかよくわからなくなってしまった。この人が言っていることはナチュラルな障害者差別である。しかし、この人は選挙と民主主義と日本国憲法を非常に強く推している人物であることは言葉の端々から伝わってきていた。にも関わらず、働いている障害者の勤務態度について雇用者でもないのに随分と文句を言っている。おそらくこのあたりの矛盾にこの人は気がついていない。ここでおれが「ちょっと変じゃないですか」と言っても特にどうもならない。それでもとにかく「なんとなくイヤな感じ」だけは残った。そりゃ確かにその従業員は本当に不快なのかもしれないが、それは別に障害者その人が悪いわけではないのかもしれない。そしてお婆さん自体も別に悪人ではない。なんせ通りすがりの不審な男の二人連れに道を案内してくれるほどなのである。なんだかなあ……。

 

 ウンウン唸りながらおばあさんと分かれて、教えてもらった「ドンキホーテ」へ向かう。その店は確かに1970年代から時間がとまったような店だった。

 

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 窓に輝く「ドン キホーテ」の文字。かわいい。

 

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 喉が渇いたのでビールを頼んだらカールスバーグが出てきて驚く。真ん中のはカツサンド。横に添えてあるピクルスの粋な感じが本当にグッとくる。

 

 このドンキホーテという喫茶店は喫茶店としての機能のほかかなりちゃんとした食事も出すパワーもあり、おまけに手塚治虫の漫画を多数揃えているという本当に素晴らしい店だった。オールドスクールな喫茶店の楽しいところ全部乗せみたいな店。

 

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 店先ではサンドイッチも売っている。包みのビニールの書体がかわいかったので満腹なのに卵サンドを買ってしまった。

 

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 腹が膨れたので団地の商店街に戻る。あまりにもファッション性がありすぎるクリーニング店の窓。この商店街は万事がこの調子で、本当に時が止まっている。

 

 一応聖地巡礼なので、『滝山コミューン1974』の主要な舞台である七小も見に行きたい、ということで道を間違えたりしつつダラダラ歩いて七小まで。校庭では少年野球の練習をやっていた。とにかく小学校自体が団地からすぐ近くの立地だったのに驚く。『滝山コミューン1974』には母親たちがPTAの活動に熱心になり、普段着のままで学校に詰めかけるという描写があったが、それもこの距離なら納得である。

 

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 七小の校門。さすがに中には入れなかったし、よく考えたら別にそんなに入りたくない。

 

 このあたりで飽きてきたので団地を離脱、帰りにホビーオフ(ブックオフのオモチャ・プラモデル版みたいなやつ)で山口勝久が原型をやってた時のケンシロウのフィギュアとタナカのグロック17のモデルガンなどを買い、所沢の世界の山ちゃんで手羽先を食って帰った。そして数日後の今日、二本松はじめさんが憲法の大事さや東京大空襲の悲惨さなどを歌っているアルバムを聞いて頭を抱えている。これらの曲を勧めつつ団地の自治会で根回ししたり立候補したことを誇り、なおかつ障害者の仕事ぶりをヤイヤイ言う心性は正直おれにはわからない。戦後民主主義って一体なんだったんだろうね……。とりあえず滝山コミューン現役世代は当時のノリのまんまバリバリやってるということだけはよくわかったのだった。