読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Everything's Gone Green

感想などです

矢吹丈対キングコング 「キングコング 髑髏島の巨神」

※「キングコング 髑髏島の巨神」のネタバレをしておりますので気をつけてください

 

 

 

1970年代の前半、世界のいろいろなところで人類は挫折していた。アメリカはベトナムで挫折し、日本では新左翼が挫折し、ミュンヘンではオリンピックまで大変なことになった。ソ連が挫折するのはもうちょっと先だけど、なんとなくおしなべて「あ〜〜あ……」という空気が漂っていた。

 

そんな挫折まみれのシケた時代のド真ん中、米軍の撤退真っ最中のベトナムはダナン基地でやっぱり「あ〜〜あ……」とくすぶっている男が1人。ベトナムで猛威を振るった陸軍のヘリコプター部隊の将校、プレストン・パッカードことサミュエル・L・ジャクソンである。結局負け戦になっちゃったベトナムから撤退しても、その後の展望もなにもない。国に帰っても反戦運動家から石を投げられるだけ。もっと己の全てを賭けられるような戦場は、真っ白な灰になって燃え尽きることができるような相手はいないのか……。そんな彼の元に「今からちょっと南太平洋の孤島に調査にいく民間人を運んでくんね?」という任務が舞い込む。「もう一回遊べるドン!」とテンションの上がったサミュエルは嫌がる部下のケツを蹴り、UH-1に乗ってスカルアイランドという新たな戦場に赴くのだった。

 

島を取り囲む嵐の中をなんとか飛び越え、ブラックサバスをガンガン流しながらいい気になって爆弾なんかをポンポン落としちゃうサミュエル。しかしそこに巨大な丸太が飛んでくる! なすすべなくブチ落ちるUH -1! 驚愕するサミュエルの前に現れたのは、なんと全長30mを超える超巨大なゴリラだった……!! 目の前でどんどん撃墜される彼のヘリと彼の部下。こんなのベトナムでも見たことないぜ! サミュエルが乗っているヘリも叩き落とされ、彼は一敗地に塗れることになる。

 

その時まさに、サミュエルのハートに火がついてしまうのである。さながらベトナムという力石徹を失った矢吹丈みたいな状態だったサミュエルが、クソでかいゴリラ=コングというカーロス・リベラを目撃してしまったのだ! 完全になにかに取り憑かれた人間のテンションでコング追撃を決意するサミュエル。瞳はキラキラ、元気は100倍。サンドバッグに憎いあんちくしょうの顔が浮かんで消える。叩け! 叩け! 叩け!!

 

かわいそうなのはサミュエルの部下だ。もし矢吹丈に部下がいたらどんなことになるか、想像してみていただきたい。あんなにテンションが乱高下する上司、絶対に嫌だ。しかしサミュエルはヘリ部隊の将校である、矢吹丈なら振り回されるのは丹下のおっちゃんやマンモス西くらいだが、サミュエルは「帰りたい」と顔に書いてある部下の兵隊たちを引き連れ「西の山に武器を積んだヘリが落ちたから拾いに行くぞ!」とイヤ度1000パーセントの命令を出す。そう、全てはサミュエルが真っ白に燃え尽きるために……。

 

そんなわけででかい蜘蛛やでかいトカゲ(この映画は「生き物のサイズがでかくなるとキモくて怖い」という強力な理論で貫かれております)と戦い、ハチャメチャな犠牲を出しながらも武器を手に入れ、コング迎撃の準備を固めるサミュエル。そして実際に彼はコングをあと一歩のところまで追い詰める! しかしここでトム・ヒドルストンやカメラマンのおねーちゃんや第二次大戦中にスカル島に不時着したおっさんがワラワラと現れ、「おまえコングと戦うのやめろ」と止めに来るのである! まさに「お前のためを思って」とか言いながらいらんタイミングでタオルを投げようとする丹下段平、頼んでないのにパンチドランカーを疑って医者を呼んでくる白木葉子そのものである。ノーガード戦法を取りつつ「邪魔すんなよおっちゃん……こっちは男と男の勝負をしてるんだぜ」と嘯くサミュエル。おれもこのあたりのシーンは「邪魔すんじゃねえ! サミュエルが頑張ってるじゃねえか!」と喉元まで声が出そうになった。

 

得意のクロスカウンターとナパームを撒き散らして水面に火をつける戦術を駆使するも、邪魔が入ったことで結局はコングに敗北するサミュエル。しかしベトナムのような不完全燃焼ではなく、コングとの真剣勝負は彼を真っ白な灰になるまで燃え上がらせた……。「キングコング 髑髏島の巨神」でのサミュエル・L・ジャクソンは梶原イズムの継承者、黒い矢吹丈であったことは間違いない。「親のある奴はくにへ帰れ 俺とくる奴は狼だ 吠えろ! 吠えろ! 吠えろ! 俺らにゃ荒野がほしいんだ」という「あしたのジョー」2番の歌詞は、絶海の孤島でコングと真っ向から戦ったサミュエルのためのものなのだ。