読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Everything's Gone Green

感想などです

ローグワンのこと

 今まで全然ローグワンについて何かを書く気になれなかったんだけど、それはそれとしてローグワンは去年見た映画の中では一番面白いタイトルだった。

 

 この映画はスターウォーズのオタクに対して、「お前はスターウォーズに何を求めていたのか」と問うてくるタイプの作品である。EP7が「観客全員が『スターウォーズを見た』と納得できる作品」を志向した開かれた映画であるのに対し、ローグワンは確実に閉じている。なんせEP4という、すでに遠い昔に作られ終わった映画に収斂するように作られた作品なのだ。言ってしまえばハナからある程度は内輪向け、ガンダムで言えばMSV、オタク大暴走みたいな映画である。

 

 でもね〜〜これがね〜〜よかったんですよ。

 

 ローグワンは明確に「絵面とディテールで人間を納得させる」ことを目指した映画である。そしてその絵面の内容というのが、ズバリ戦争である。内戦下のシリアのような風景の中をAT-STが歩き回り、ブラスターを抱えたストームトルーパ—が銃座のついたMRAPみたいなクルマのまわりを歩いて移動している。ようやくスターウォーズメタルギアソリッド4に追いついたのだ。そして後半のスカリフの戦闘に至ってはもう完全にベトナム戦争だ。反乱軍の兵士はスチールヘルメットにM69ボディアーマーを着てジャングルの中を歩き回り、UウイングのドアガンでAT-ACTの脚を撃ちまくるのである。戦争だ。ローグワンはスターウォーズで戦争をやった映画なのである。血が沸かないワケがない。

 

 スターウォーズは実在の兵器や兵士の服装のディテールをこれまでにないレベルでSF映画にぶっこんだタイトルである。だからそれが「リアル」だとされたし、数多くのフォロワーを生んだ。そして、その中心にいた人間がジョー・ジョンストンである。マクウォーリーと並んでスターウォーズのデザイナーの巨頭とされるジョンストンだが、ティム・ホワイトやクリス・フォスなど70年代SFアートの強烈なエッセンスを漂わせているマクウォーリーと比較するとそのセンスは圧倒的にモダンだ。そしてジョンストンの仕事は圧倒的なミリタリー的情報量に満ちている。なんせドイツ軍パイロットに倣って反乱軍パイロットの脚に信号弾の帯を巻いたのはこのジョンストンなのだ。えらい人なのである。

 

 そんなジョンストンたちが1976年にやった仕事に立ち向かい、そしてまさにローグワン本編同様にバタバタと倒れていったのがローグワンのスタッフである。圧倒的な普遍性を持つスターウォーズのデザインに立ち向かい、そして挫折していく過程を綴った本当に残酷な書籍が、「アート・オブ・ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー」だ。いやこの本マジでキツいんですよ……。

 

アート・オブ・ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

アート・オブ・ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

 

 

  ローグワンはEP4に収斂することがあらかじめ決まっている映画である。だからこの映画で足される新要素もEP4に収斂しなくてはいけない。そしてこの映画で足された新要素は最後にはキレイに消え去ることがあらかじめ決まっている。この「アート・オブ・ローグワン」は、そんな最初から負けが決まっているような戦いに挑んだプロダクションデザイナーたちの死闘の記録だ。ひとつひとつのデザインに盛り込まれた新しい要素が削られ、没になり、そして最後にはジョンストンという巨大なシールドにぶつかって爆死する。そりゃ最初からわかってはいたけど、それぞれのデザインの結末を見ると切なくなる。

 

 それと同時にこの本で分かるのが、ローグワンは明確に戦争、それも20世紀の半ばに戦われたいくつかの戦争を志向していたという点だ。巻頭に掲載されているイメージボードを見た時におれは戦慄した。キリングフィールドに積み上げられた頭蓋骨のように無造作に積まれたストームトルーパ—のヘルメットの脇で銃を担いで立つ反乱軍の兵士。まるで1960年代の東南アジアで撮られた写真のような絵面。それなのにスターウォーズ。おれはこの足し算のセンスに痺れた。これは1976年には不可能だった仕事である。なんせ当時はベトナム戦争だって終わった直後だ。ジョンストンが20世紀の東南アジアの戦争を咀嚼するのは時間的に近すぎる。これは2016年だったからこそできたことだと思う。ローグワンのプロダクションデザイナーは、その一点においてルーカスという安全弁がついていたジョンストンたちの仕事に勝った。

 

 思えばスターウォーズはタイトルにウォーズってついているにも関わらずあんまりマジメに戦争をやろうとしてこなかった。ルーカスが志していたのはあくまで素朴な活劇だったので、戦争はあくまで辺縁のディテールに留まっていた。しかしローグワンは違う。「戦争SFとしてのスターウォーズ」が初めて顕現したのである。そしてそれこそがおれの見たいものだった。おれはスターウォーズに戦争をしてほしかったのである。チャチなCGアニメのクローン大戦なんかじゃない、あの世界で行なわれる本物の戦争が見たかったのである。そりゃもう泣く。泣くしかない。

 

 「戦争を志向し表現する」というその一点の純度において、ローグワンはEP4を上回ることができた。だからおれはこの先どんなにつまらないスターウォーズの新作を見せられてもニコニコしていられるだろう。なぜなら、おれにはローグワンがあるからだ。