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Everything's Gone Green

感想などです

なぜ、EP7からスターウォーズを見た人には、ストームトルーパー"だけ"がダサく見えたのか?

 まずこのエントリの前提として、以下の青柳さんのエントリを読んでおいていただきたい。

 

ao8l22.hatenablog.com

 

 この青柳さんのエントリの途中で話題に上がっている「ていうか、ストームトルーパーのデザイン、ダサくないですか?」という疑問について、読んだ後にけっこう考えこんでしまった。この飲み会でペラペラ喋っているスターウォーズおたくBは何を隠そうおれなので知っているのだが、EP7からスターウォーズを見た2名は飲み会の現場ではXウイングやTIEファイターやファルコン号にはそこまで「ダサい」と言わなかったからである。ほぼ1977年のデザインそのままだったビークル類はよくて、けっこう各部にアレンジが施されていたストームトルーパーはダサく見えたのは何故なのか。

 

 まず大前提として、スターウォーズEP7のアートワークはEP4〜6を下敷きにしているのは映画を見た人ならばわかると思う。EP1〜3と異なり、EP7はEP4〜6の後の世界を元にしている。だからメカや登場人物の服装やガジェットがその影響下にあるのは当たり前と言えば当たり前。しかも、EP7ではレイの服装がルークの初期スケッチを元にしていたり(初期段階ではルークはルーク・"スターキラー"という名前で、しかも女性になる予定だった)、レジスタンスの使うXウイングも主翼を閉じた時に上下のインテーク部分が円形になるラルフ・マクウォーリーの初期デザインを引用していたりと、オタク向けの目配せにも隙が無い。それらはEP4〜6を経た上でのデザインワークとしてかなり精度の高いものだったといえるだろう。これに関してはこのブログで以前にも書いた。

 

 これらのアートワークの中でも、ビークル類の重要度は高い。そもそもスターウォーズは世界的にも「メカをデザインする」ということの意義を大きく塗り替え、その作業のウェイトを見直させた作品だと思う。

 

 スターウォーズのメカデザインはひとつの発明と言ってもいい。以前から言われているように、ツルツルピカピカした宇宙船が主流だった頃に、汚れてボロボロになったメカを大量に登場させたのは大変にエポックメイキングなことだった。しかも、そもそものメカ自体の形状も強烈だ。細長い胴体の後方に前進翼っぽい形状の主翼を4つ取り付け、その主翼が開いたり閉じたりする、円盤状の胴体の前方に三角形が2個くっついてて操縦席が脇にくっついている、といったビークルたちの形状はやはり現在の眼で見ても斬新で、どうやってこんな形のものを思いついたのか、はなはだ不思議である。例えば遠い昔にデザインされたフォルクスワーゲンのビートルを今我々が見ても「あれはビートルだな」と認識し、ともすれば「かっこいい」と感じることもあるように、スターウォーズビークル類はそのフォルムの独特さから登場した瞬間にパーマネントなデザインになってしまったのだ。

 

 翻ってストームトルーパーである。「純白の装甲服に身を包んだエリート部隊」という設定は確かに1977年の時点では強烈にSFっぽかったのだと思う。マスクの人相もなんだか悪そうだし、ぱっと見ペラペラの装甲でも、ツヤツヤした表面に照り返すライトパネルの輝きはかっこいい(と思う……)。そしてそもそも、1977年には「歩兵がフルフェイスのヘルメットや防弾装備を身につけて戦う」というのが一般的ではなかったのも、ストームトルーパーの未来っぽさにつながっていたのだろう。今回の青柳さんのエントリにもあった「なんでカイロ・レンは防弾チョッキとか着てなかったの?」という疑問にもつながるけど、スターウォーズは元々兵隊があんまり防弾チョッキとかを着用していなかった時期の映画なのだ。

 

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↑これは1973年ごろ、当時の新型装備であるALICE系列の装備品を身につけたアメリカ兵である。スターウォーズ公開4年前の装備なので、まあほぼ同年代ということでいいと思う。この写真をじ〜っと見た後に下のストームトルーパーを見ていただきたい。

 

 

 

 

 

 

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 どうだろうか。「み、未来〜〜〜〜!」って感じがしないだろうか。しなかったら申し訳ないが、このいかにも呼吸装置が収まっていそうなマスクといい、歩兵と言えば大抵ド緑色の服を着ているのに装備があえて純白一色な点といい、「げっ!これが帝国軍の兵隊なのか!」というインパクトがある気はする。

 

 

 

 

 しかし、その後歩兵の装備は大きく様変わりしてしまい、兵士は年々重装備化。ボディアーマーや凝ったヘルメットをつけて戦うのは一般的になった。

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↑『ゼロ・ダーク・サーティ』のDEVGRU。この装備が実際にビンラディン暗殺に使われたかどうかは諸説あるが、ひとまず整合性がある装備なのは間違いない。上のストームトルーパーと見比べると、現代の眼では「こっちのほうがSFっぽくてかっこいい……」というふうに見えるのではなかろうか。

 

 つまるところ、ストームトルーパーのデザインは「人が着用して戦うもの」であったがゆえにパーマネントなものになれず、「ストームトルーパーとは何か」というお約束を共有していない人間にとっては単に古くさくてダサいものになってしまったのである。宇宙を飛び回る飛行機は現実に存在しないので非常に長持ちする存在感と説得力を手に入れることとなったが、歩兵はそもそも実在する存在であり、そして1977年から2016年の間に現実がストームトルーパーのデザインを追い抜いていったのである。

 

 ファーストオーダーストームトルーパーのデザインをする上で、制作陣は相当迷ったと思う。現代的なデザインにすればストームトルーパーのニュアンスを取りこぼすが、さりとてEP6以降の物語を描く上で白い装甲服を着た敵の大集団は絶対に外せない。どちらを取るかという局面で、制作陣は「やっぱストームトルーパーがいないとスターウォーズじゃねえよな!」という結論に至ったのだろう。なのでEP7のスタッフは旧ストームトルーパーのデザインをブラッシュアップして線数を減らし、さらにアップル製品のようなツルリとした表面とシンプルさを与えた。さらにチェストリグを着用し予備マガジンを詰めた兵士を登場させ、帝国軍のブラスターにM4系のクレーンストックっぽいストックを取り付けることで「一応、現在こういう感じのタクティカルな装備があるのは知ってるんだよ」という目配せすら見せた。個人的には英断だったと思う。

 

 というわけで、そもそも実在しないものをいきなりデザインしたビークルのメカデザインと、実在する人間に着せる衣装、それも歩兵用装備などという変化の激しいものをネタにしたストームトルーパーのデザインとでは、同じスターウォーズのアートワークでも劣化の速度が大きく異なったのではないかというのがおれの結論だ。別に軍事オタクじゃなくたって、現代の兵隊の写真や映像はニュースなんかで見るだろうし、それと比べた観客が「ダセぇ!」と思うことは止められない。それでもEP7の製作チームは「あのストームトルーパーのデザインラインに乗っかる」ことを決めたのである。つまるところ、EP7はそういう映画だったのだ。

 

 この理屈で言うと、スターウォーズビークルのデザインが古びることがあるとすれば、それは人類がハイパードライブを発明し実際にスターウォーズのように自由に宇宙を移動する頃だろう。そんな遠い未来でスターウォーズを初めて見た人達も、ビールを飲みながら「なんかワープ中の演出が現実と全然違うし、なによりダサくないですか!?」と議論を交わしたりするのかもしれないと思うと、ちょっと楽しい気分になるのだった。