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Everything's Gone Green

感想などです

感動をありがとう 『グリーン・インフェルノ』

「日本を元気にしたい」と言いつつ「ぃぃいらっっしゃっせーーーーーーぃ!!」と客に向かって怒鳴るような接客をする居酒屋。「感動を届けたい」といいながら競技に臨むアスリート。「勇気をもらいました」という映画の感想。おれはこういったものを見るだけで毎回律儀にウンザリしている。居酒屋の店員の声は大きすぎるとこちらの会話がしにくくなるし、感動はこっちで勝手にやるから運動の選手は競技に集中してくださいよと思う。

 

 そんなおれだが、今日はイーライ・ロスから本当に感動をもらってしまった。最新型食人族ムービー『グリーン・インフェルノ』を見たのである。

 


映画『グリーン・インフェルノ』予告編 - YouTube

 

 

「アマゾンの少数民族が開発によって住処を奪われ、虐殺されている!」と義憤に燃える学生団体が開発のひどさをスマホで撮影、SNSで動画を拡散しようと現地に飛ぶも、復路で飛行機がジャングルに墜落。落ちた飛行機の周りを学生たちがうろうろしてたらどこからともなく毒矢が飛んできて、気がついたら人食い土人の集落の中。かくして意識の高い学生たちが一人また一人とアマゾンの未開の部族で丸焼きにされたり刺身にされたりしてバクバク食べられてしまうのだが——というお話。

 

 

 

 なんといっても近頃話題の人食い族映画である。かつては「人食い族」といえば「恋愛」「アクション」「SF」に並ぶれっきとした映画の1ジャンルだったけど、最近では『食人族』のブルーレイの発売がずれ込んだりガルパンの予告で揉めたりとトラブルに事欠かない。という状況下でありながらフタを開けてみればこの『グリーン・インフェルノ』は超剛速球のカニバリズム映画で、この開き直りっぷりにはもうゲラゲラ笑うしかない。なんつっても主人公の学生たちをバリバリ食べちゃう人食い族の造形が見事で、めちゃくちゃにガチ度が高い。聞けば本物の現地少数民族の人たちなんだそうで、みんなものすごくイイ顔をしており、またこれが美味そうに肉を食べるんである。人肉だけど。

 

 意識高い学生サイドの描き方もすばらしい。団体のリーダーはSNSiPhoneを使いこなすヒップスター的な奴で、同じ団体のなかに彼女もいるような、一種のカリスマ。だけど映画が進むにつれてこいつがほんとにとんでもない奴だということが判明していくのは、人肉食シーンとならぶこの映画の大きな見所のひとつだ。そんでもって携帯とインターネットとバッテリーを奪われて未開の地に放り出された意識だけ高い学生たちの弱いこと弱いこと。おれだってアマゾンのジャングルで人食い族の前に放り出されたら似たようなもんだと思うが、とにかく高い意識の裏側に独善と傲慢を隠し持った現代的な若者たちがバンバン景気よく死んで食われるので大変溜飲が下がる!もっと殺れ!キルエムオール!!

 

 というわけで本作においてイーライ・ロスは触るものみな傷つける巨大電気ノコギリのような偉業をなしとげている。主人公ら学生たちもいけすかないクソ野郎だし人食い土人は元々意思の疎通がほぼ不可能。返す刀で観客にも「お前らだってこの学生どもとそう変わんねえんだよ」と切りつける。『グリーン・インフェルノ』は娯楽性の高いカニバル映画であると同時に優れた現代社会への批評でもあるのだ。ジャングルの緑はどこまでも美しく撮影されており、そこを開発する重機や警備のPMCたちはひどく禍々しい。それを自らの自意識を満たすためだけに「告発」しようとする軽薄な学生グループ。そしてそこに人食い土人とフルスロットルの人体損壊。『グリーン・インフェルノ』に詰め込まれているのは現代社会を構成する要素そのものだ。人食い族映画でこれをやるのは恐ろしいバランス感覚だし、やっぱりイーライ・ロスは心底真面目な人なんだろうと思う(余談だけどこの内容の映画のエンドクレジットで出演俳優のツイッターのアカウント名を入れるのとか批評性超高いと思う)。

 

 しかもこの映画、部分的にはコメディなのである。人類史上最もオナニーが困難な状況でのオナニーのシーンでは客はゲラゲラ笑ってたし、画面には常にギリギリすぎるユーモアの気配が漂っている。頭から人間が食われているのに。この不思議な空気感は是非とも映画を見て確かめていただきたい。

 

 やれポリティカル・コレクトネスだ人道的配慮だと喧しい昨今に、これだけ直球の人食い族映画を制作したイーライ・ロスは敬意に値する。この映画からは「客を本気でビビらせたりドン引きさせたりするにはこれくらいやんねえとダメなんだよ!!」というスタッフの気合が充満しているのだ。間違いのないプロの仕事であり、そしておれは前述のような構造を組み込みつつも優れたエンターテイメントとしてこの映画を完成させた彼らの仕事ぶりに感動をもらったのである。偉いよあんた達!

 

 とはいえ、ハチャメチャな人体損壊シーンてんこ盛りなんで人によっては全くダメな映画だと思う。無理は禁物だが、それでも見られるならなんとかして見たほうがいい。見世物小屋的な興奮と優れた社会批評のハイブリッドなんてなかなか見られるものでもないし。もしちゃんと見れば「ワシは『グリーン・インフェルノ』を劇場で見たんじゃよ……」と孫の代まで自慢できる、そんな気分になる1本なのだ。