Everything's Gone Green

感想などです

たまたまi☆Risのライブを見たらすごかったという話

 先週末のワンダーフェスティバル、そこでi☆Risのライブがあったので見に行ったのだけど、これがまあ本当にすごかった。平たく言ってビックリした。普段からアイドル文化に触れている人からすれば「今更何言ってんの?」という話だとは思うが、本当に驚いたのである。

 

 

 おれは長らく(今も)アイドルというものにあまり縁のない生活をしてきた。一応オタクをやっていると思うのだけど、アニメを見たり本を読んだりゲームをしたりオモチャを買ったり映画を見たりプラモを作ったりはしたけどアイドルに入れ込むというのは全くやっていない。オタクでもなんでもない人に「gerusea君、オタクなんだ〜。じゃあやっぱりAKBとか好きなの〜?」みたいな雑な話の振り方をされるたびにイライラしたりしていた(今は「あれは話すことがなくてあの人も困ったんだろうな」と思っています)。前提として、そういう、まったくアイドルカルチャーに免疫のないままにアラサーになってしまったオタクの話であると前置きしておきたい。

 

 話はズレるが月村了衛という人の機龍警察という警察小説兼SF小説のような小説がある。ほぼ現代の日本だが機甲兵装というボトムズのATのような二足歩行兵器が存在する点だけが現実と異なるという、テロが頻発するようになった世界を舞台に、警察に組織された最新型機甲兵装運用部隊の苦闘を綴ったとても面白い小説のシリーズなのだが、昨年以来おれはこのシリーズにどっぷりハマっていた。で、この機龍警察のファンの皆様のツイッターでの発言を検索して掘り出しては読むようになったんだけど、当然ながら四六時中機龍警察の話だけが出てくるわけではなく、他の作品についての話も多い。その中で集中的に話題に上るタイトルに『プリパラ』があった。

 

 『プリパラ』は、カードの発券機兼リズムゲームが遊べるゲーム筐体と連動した女児向けアニメである。登場人物の少女たちがオンライン上の仮想空間にアクセスし、自ら衣装を選んでアバターを作成、そのアバターでアイドル活動を行なう中で仲間を増やしたりライバルとしのぎを削ったり……という女児向けアイドル版マトリックスのような話だ。しっかりしたストーリーの土台、クレイジーな脚本、異常にキャラの立った登場人物、3DCGならではのフィギュアっぽい可愛さのあるダンスシーンなど、見所が豊富でトウの立ったオタクのおっさんが見ても充分に面白く、特にネット上の集合意識が生み出した電子的な生命体であるファルルの死と原始宗教の発生、そしてそのファルルの復活と「友達」への変化を描いた第一シーズンの最後のあたりは毎週ウンウン唸りながら見ていた。おれはインターネットから教えてもらった『プリパラ』を大変面白く観賞していたのである。

 

 この『プリパラ』の主要登場人物の声優を務めているのがi☆Risだ。合計で6人、いずれも声優兼アイドルとして活躍しており、バラバラに『プリパラ』以外の作品に出演したりしている。声優兼アイドルのような人はたくさんいるけど、i☆Risはどちらかというとアイドル色が強いらしく、前述のワンフェス会場でも「i☆Ris」というグループ名が大書されたマフラータオルを羽織っている人をちょいちょい見かけた。全員うちの妹よりもずっと年下の女子の集団である。それがワンフェスでグッスマのブースでちょっとしたライブをやるという。『プリパラ』は面白いしどんな人が出てくるか気になるし、話の種に見てみるか、という感じで、おれは本当にすごく軽い気持ちで会場に出かけていったのだ。

 

 ここからは『プリパラ』に関しての説明は省く。

 

 ステージが始まる前に司会の鷲崎健がいろいろと注意事項を言う。「写真撮るな」とか「暴れるな」みたいな内容で、逆に言うとそれを言われないとそんなめちゃくちゃ動く奴がいるのか……世紀末かよ……と思ったのもつかの間、i☆Risの皆様が登場となった。普通に「こんにちは〜」みたいな感じで登場する6人。「あれ、普通にアイドルだ……」と思った次の瞬間、間中らぁら役の茜屋日海夏さんの「かしこまっ!」が飛び出した。

 

 その瞬間、おれはなんかよくわからない感覚を味わった。テレビで聞いた声とテレビで見た動きが同時に生身の人間から発される。それによってさっきまではただのアイドルっぽい衣装の女の子にしか見えなかった人が、なにか一枚別のレイヤーが重なったように感じたのだ。その後も続く芹澤優さんの「ポップ、ステップ、げっちゅー」で完全に自分が何を見ているのか分からなくなった。アニメの人と同じ動きで同じ声の人がそこに立っている……。この人は一体誰だ……? おれは何を見ているんだ……? いや、声優さんのライブなんすけどね。それは分かってるんですけど。

 

 全員で「ミラクル☆パラダイス」を歌った後、山北早紀さん、澁谷梓希さん、若井友希さんが「ドレッシングパフェで〜す!」とステージに登場した時におれの混乱は頂点に達した。え!? 君たち中の人じゃないの!? 『プリパラ』って一応アニメでしょ? 君たちは生身の人間でしょ!? しかし、聞こえてくる声が同じなので説得力がすごい。だんだん「動きと声がアニメと同じ人たちがそう言うならそうなんだろう」という気分になってくるし、ご丁寧にメイキングドラマ的な演出もある。それらに一々「これテレビで見たやつだ……」と思ってしまった。そのままの勢いでなだれ込む「CHANGE! MY WORLD」。テレビで聞いた曲をテレビで見た動きで歌う3人。横でコールを怒鳴るオタク。なにがなんだかわからない。

 だが、この後にSoLaMi♡SMILEが「SoLaMi♡SMILEで〜す」と登場した時には、もはやおれは「そういうもの」としてステージ上の状況を受け入れていた。現実と非現実の境界線はブレストファイヤーを食らった機械獣のようにドロドロと溶けていき、ただひたすら「あっ今の動きテレビで見た」「テレビで聞いた音だ」「今の動き可愛かった」「つーか全部可愛い」と、呆然としながら動きと音声だけに反応するお猿さんのようになってしまったのである。反省している。

 

 この力業で現実と非現実の境界線を破壊する行為は多分、タイガーマスク時代の佐山聡がもたらした衝撃あたりとかなり近い気がするが、プロレスを引き合いに出してアイドルを語れるほどおれは両者に詳しくないのでやめておく。しかし、手刀でビール瓶を真っ二つにする大山倍達、南米で見つかったナチス残党の隠れ家、横田基地の基地祭で普通に屋台を出していたフリーメイソンなど、フィクションで馴染んでいたものを実際に目の当たりにした時の「ああ、やっぱりこの人は実在したんだ! プロレスラーはやっぱり強いんだ!」という感覚はなかなか味わえない、とても貴重なものだ。フリーメイソンと違って『プリパラ』は元からフィクションだから感慨もひとしおである。おれにとって、このあたりの驚きがものすごいものだったわけだ。

 というような話を知り合いにしたところ「同じ事を最近ラブライブ!にハマった奴が言っていた」と言われた。なるほど確かにあれも本編と同じ声優が歌って踊っている。タイガーマスクが9人もいるようなものだ。そりゃ人気が出るわけである。

 

 で、とりあえずもう一回ちゃんと楽曲を聞いてみようと思い、アルバム「we are i☆ris!!!」をitunesで買って目下聞いている。恐ろしいのは段々とおれの中で「あれ、もっかい見てえな……」という気持ちがムクムクと湧いている点だ。近い将来、おれはまたi☆Risを見に行ってしまいそうな気がする。その時おれはどうなってしまうのかさっぱり読めない。始まりは機龍警察だったのにずいぶん遠いところに来たものだと思いながら聞く「Love Magic」は、それはそれでまた複雑な味わいがあるのであった。

Love Magic

Love Magic