Everything's Gone Green

感想などです

2.5次元映画の誕生 『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』

アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(以下AOU)を見たので感想を書く。といっても、おれはMCUマーベル・シネマティック・ユニバースの略ですね)の今後を占ったりAOUに隠された寓意を探ったりPC的にあのブラックウィドウはどうなんだということにはあまり興味がない(ないわけではないんだけど……)ので、現時点で俺が思った「アメコミ映画ってすごいなあというポイント」の話を書いておきたい。例によってちょいちょいネタバレしているので注意してほしい。

 

 

 

 おれは長らく2.5次元のコンテンツというものの良さがよくわからなかった。『テニスの王子様』のミュージカルに代表されるような女子向け漫画/アニメの舞台化や、一部のアイドルユニット、場合によっては宝塚とかも含むかもしれないんだけど、とにかくこういうものにけっこうな金額を突っ込む人の心理というのがよくわからなかったのである。「漫画/アニメの状態のコンテンツが好きだったんじゃないの? 舞台ではド派手な必殺技とか出ないでしょ??」と思っていたのだ。しかし、AOUを見て考えを改めた。2.5次元コンテンツ、超楽しい。以下はなんでそう思ったかという話である。

 

 映画の序盤、ヒドラの壊滅を祝ってアベンジャーズのヒーロー達が祝勝会というか、パーティーを開く展開がある。普段のコスチューム姿ではなくフォーマルな服装に着替え、手にグラスを持って酒を飲みつつ楽しげに歓談するヒーローたち。それぞれ自分の彼女の自慢をしたり、男女のヒーロー同士でなんだかいい雰囲気になったりと、戦闘中とはまったく異なるリラックスした表情を見せる。そのうちヒーロー達がソー以外は持ち上げることのできないムジョルニアを代わる代わる持ち上げてみたり(キャップがちょっと持ち上げたときのソーの表情!!)と、和気藹々とキャッキャしている様を存分に見せてくれる一幕である。下に貼ったトレイラーの最初の方がそのシーンにあたる。

 


Marvel's Avengers: Age of Ultron extended teaser ...

 

 これを見た時不覚にもおれは激萌えしてしまった。なんてチャーミングなんだ……ほぼ全員ムキムキのあんちゃんとかなのに……と頭の片隅で思わなくもなかったが、ムキムキのあんちゃんやらヒゲのおっさんやらがフォーマルな服装でキャイキャイとじゃれ合う様子に「これは本来ならオタクが二次創作でやるべきネタなのに……ディズニー大丈夫かよ……」といらぬ心配までしてしまった。脳裏で「これに似た映像をどっかで見たな……」と思ったけど思い出せなくて、家に帰ってから「あ、血界戦線のエンディングっぽかったんだ」というのを無事に思い出したりもした(似てませんか、あれ……?)が、しかし、おれはこれこそが今までMCUが積み上げてきた蓄積が物を言ったシーンだと思う。

 

 アメコミ(というと主語がでかすぎるので「マーベルの主要タイトルには」くらいのほうがいいか)は長らく特定の作者というものが存在せず、ライター、ペンシラー、インカーなど、ストーリーや脚本を考える人、絵を描く人、絵に色をつける人などが分業でひとつのタイトルに関わる形をとっており、その状態でこの80年あまり作品が積み上げられてきた。いわば公式が二次創作を延々と繰り返し続けている状態であり、それゆえに日本の漫画では考えられないようなぶっとんだクロスオーバーや楽屋オチが多数存在する。国内の感覚で言う「二次創作」に近い内容の作品を、あちらでは公式が堂々とリリースするのである。その空気感はMCUの諸作品でも顕著で、テレビに出演した映画の出演者同士が妙に仲良くしていたり、舞台挨拶などの席でもまるで友人同士のようにキャッキャしてたりする。そして、その仲むつまじい状況はインターネットを通じて国内にいても知ることができるのだ。

 

 当然ファンとしては「撮影中にこいつとこいつは妙に楽しげにイチャついてたな……」とか「あのシーンの撮影中にキャストがはしゃいでるのをツイッターで見たな……」とかが脳裏を横切りつつ、スーパーヒーローが飲み会で楽しげにしているシーンを見ることになる。この文脈の複雑さがおわかりいただけるだろうか……? MCU世界での設定(スタークは根性が悪くてアル中とか、キャップは真面目だけど朴念仁の童貞とか)と現実世界での俳優たちのキャッキャウフフとアメコミ自体が内包しているお約束と最新のCG技術が渾然一体となり、超ゴージャスな2.5次元映画が誕生したのである(ちょっと意味合いはズレるけど最後の戦闘シーンは動く絵画みたいだったし)。「MCU映画はみんなそうじゃん」と言ってしまえばまあその通りなんだけど、あのスーパーヒーロー飲み会の多幸感は今までの各タイトルの中でも群を抜いていたとおれは思う。戦闘シーンがすごい密度&スピード感&規模で展開するのは当然のこととしつつ、そういう「アメコミ映画ならではの萌え」をサラリと突っ込んでくる点にこそ、スーパーヒーロー映画ならではの凄みを感じたのである。

 

 で、最初に書いた話に戻ると、これって構造的には日本における2.5次元もののコンテンツと同じなのではないかと思ったのだ。どちらも虚構の世界と現実の俳優の肉体とがぐちゃぐちゃに入り交じり、複雑で豊穣な文脈の蓄積を築き上げている。ことここに至って、イケメンによる二次元作品のミュージカル化や『マジすか学園』に熱を上げるオタクたちの心理がなんとなくわかった、というと言い過ぎだろうか(言い過ぎでしょうね……)。でも、とにかくそういうことをおれに教えてくれた映画としてAOUには非常に感謝している。これからMCUのシリーズはかなりしんどい展開になりそうだけど、アベンジャーズのみなさんには是非これからも末永く活躍していただき、おれを萌え殺していただきたい。